飛魚

中島裕翔くんのファンです

舞台「カラフト伯父さん」感想

伊野尾くんの初主演舞台「カラフト伯父さん」観に行ってきました。
以下ネタバレありの感想です。
セリフは曖昧な記憶によるニュアンスのものです。
あと2回くらい見たいなー!じゃないと消化しきれないよー!
時系列がよく整理できなくて、解釈に間違いがあるかもしれませんがご容赦ください。これ書き終わったら感想めぐりの旅に出るんだー。楽しみだなー。

「近所のお兄ちゃんががれきに足をはさまれて、なんとか助けようとしたけど火の粉がどんどん降りかかってきて、兄ちゃんは早く逃げろ、早く逃げろと言う!その向こうではまだ九つの男の子が、和箪笥の下敷きになって熱い熱いと言っている!そこらじゅううめき声、泣き声だらけだけど見捨てて逃げるしかなかった!避難場所でばあちゃんが死んだ、仮設住宅でじいちゃんが死んだ、ローンの残ってる家が倒壊してまたローン組んで家を建てて、二重ローンで朝六時から夜十二時まで働くしかなかった父ちゃんも死んだ!悲しみつらさ、生き残った申し訳なさばっかり積み重なってくる!!俺はずっと叫んどった!カラフト伯父さん助けて!カラフト伯父さん!カラフト伯父さん、ほんたうのさいはひはどこ!?カラフト伯父さん!」

ストーリーは公式サイトに載っているあらすじ通りで、このあらすじを前提として話が進んでいくというよりは、このあらすじを描いていくのが舞台全体のおおまかな流れでした。

 舞台は10年前に大きな地震の被害に遭ったある街の、地震で壊れた屋根がそのまま残る寂れた鉄工所。そこに一人で暮らす徹(伊野尾 慧)のもとに、借金取りに追われる父(升 毅)とストリッパーの女(松永玲子)が転がり込んでくる。

 かつて、母が別の男と再婚した後、時々自分に会いに来る父を幼かった徹は「カラフト伯父さん」と呼んで慕っていた。だが、母の死を看取らず、震災の時も何の手助けもしてくれなかった父に対し、やがて激しい憎悪を抱くようになっていた。手を差し伸べてもらえなかったことへの絶望や怒り。今も生々しく残る地震への恐怖。多くの人が亡くなった中、自分だけが生き残ってしまったという罪悪感……。

 さまざまな思いや震災で受けた心の傷に悩み苦しみ、将来への希望も無く生きる徹だが、父たちとの暮らしを通して少しずつ心を開いていくが……。
http://www.karafuto-ojisan.jp

突然自分の住まう鉄工所にやってきたカラフト伯父さんに、徹くんは冷たい態度を取り、帰れ消えろ、二度と姿を現わすなとはねのけます。カラフト伯父さんはその態度に戸惑い、「どうして私を憎むんだ」「私が何をした?震災の時も電話をしたじゃないか、交通機関がダメージを受けていて直接は来られなかったけど、渋谷で募金もしたし曲がりなりにも私は社長でそうそう会社を空けられない!出来ることはやった!」「私のなにがそんなに気に入らないんだ」と問いかけます。
わたしも不思議に思ったんですよ。徹くんはどうしてこんなに冷たいの?昔カラフト伯父さんと呼んで慕っていた父親の、落魄した姿を見たくないのかな?それともカラフト伯父さんには、まだ舞台上で明かされていない秘密があるのかな?
そこで冒頭書いた、泣きながら絞り出すように言ったセリフですよ。

徹くんはねカラフト伯父さんのことが今でも好きで大好きで、だからこそ自分の目の前から消えて欲しいんだなって思いました。
自分は幸せになっちゃいけないから。
震災が起きて、なすすべもなく大事な人たちが死んでいく。少しの揺れに怯えて眠れないから軽トラの運転席で、毛布にくるまって眠るけど、夜になると兄ちゃんの早く逃げろの声、九つの男の子の熱いよの声が聞こえてくる。あの時自分も死ぬべきだったと自分を責め続けて生きることが、供養の代わりになっている。
「いつでもおまえを、ぴかぴか照らしてやるよ」と言っていたカラフト伯父さんを口先だけの嘘つき野郎といって憎むこと、自分の心の拠り所をあえて貶めてぐちゃぐちゃにして、失ったことにする。
生き残った代償として。
だから消えて欲しい。一緒にいると、また好きになってしまうから。

「あなたはどう思っていたか知らないけど、わたし、幸せだったわよ、あなたと出会って。だから徹にも、分けてあげてね。わたしにくれた、ほんたうの、さいはひ…。」
亡くなる前に徹くんの母が、別れた元亭主であるカラフト伯父さんにこう言っていたこと。
「母さんは死んではいないよ。ほんたうのさいはひを探しに行ったんだ」
徹くんの母親が亡くなったとき、カラフト伯父さんが徹くんにこう言ったこと。
ラストシーンでカラフト伯父さんは、「ほんたうのさいはひは、お腹の子の、子供の子供の、そのまた子供がもしかしたら、見つけるかもしれない。」って仁美さんに言っていたけど、わたしはカラフト伯父さんこそ、ほんたうのさいはひを体現しようとした人なんじゃないかと思います。
母を失った子には、道標になってやると言い。
父を失った子を宿す女には、一生面倒見てやると言い。
力及ばず徹くんには口先だけの男と言われてしまったけど。
そう考えてみると、ほんたうのさいはひというのは、「家族」のなかにあるんじゃないかな。

戸籍上はもう父じゃないけど、血のつながりのある父と子。
戸籍上はもう夫じゃないけど、年に二、三回は子を通して会う夫と妻。
戸籍上は多分夫じゃないけど、一生面倒みると言った男と女。
血のつながりはないけど、生まれる前から一生面倒みると言った父と子。
カラフト伯父さんは誰に対しても家族の一員であろうとすることで、「ほんたうのさいはひ」をプレゼントしてまわったんじゃないでしょうか。


シリアスなだけじゃなくて、笑えるところが多かったのが良かったですね。徹くんと仁美さんのコミカルなかけあい、癒しだった〜!
それにしても仁美さんがストリップやるとき歌うのが「赤いスイートピー」っていうのがちょっと切なかったね。知り合った日から半年過ぎても手も握らない男の人の、たばこのにおいのシャツにそっと寄り添いたかった日もあったろう。そんな人はストリップ小屋にはきっと来ないよね。
「おっきいワイングラスよ、あたしが入れちゃうくらいの。はるいーろの汽車に乗ーってー、って一枚一枚脱いでくの、ワイングラスのなかには赤い液体が入っててね、ワインレッドっていうの?そのなかで踊るのよ。そしてクライマックスはね、ここ(女性器)に注射していれた白い液体を〜、アイウィルフォーロユー、ピュー!!あなーたに、ついーてゆーきたい、ピュー!!…びっくりした?」
「…ちょっと」
「アッハハハハ!赤と白が混ざってピンクの液体になるのよ、キレーなのよー!」
自己破産まで追い詰められたカラフト伯父さんを明るく励ます仁美さん、気休めだとしても、あそこ良かったなあ。家族みたいだった。ほんたうの家族のようだった。