飛魚

中島裕翔くんのファンです

続・舞台「カラフト伯父さん」感想 クライマックスからラストにかけて

カラフト伯父さんの感想をいろいろ読んでみて、またいろいろ考えたのでちょっと。
ねたばれしかしないので閉じますね〜


「破産するのはいい、ローンやクレジットカードが使えなくなるくらいなんでもない。だがその先はどうする、その先、その先は!雇ってくれるところがあるのか、この歳で!?いやそもそも…今更人の下でなんか働けるのか?」
頭を抱えるカラフト伯父さんを見て徹くんはおもむろに軽トラの助手席の扉を開け、取り出した封筒を差し出します。
「給料。前借りしてきた」
カラフト伯父さんはこのお金を、仁美さんのぶんの新幹線のチケット代を残して全て呑み尽くしました。

カラフト伯父さんが徹くんの元にやってきた時、給料日まであと6日でした。黙っていても6日経てばもらえるお給料を、わざわざ頭を下げて前借りした。お金を受け取ったカラフト伯父さんは、チケットを買いに一人になってから、こうは思わなかったでしょうか?

「そんなに早く、俺に目の前から消えて欲しいのか?」

一度そう思ったら、もう手元のお金が憎くて憎くて仕方なくなってしまったでしょうね。思いつく中で一番悪い、汚れた使い方をしたくなったことでしょう。それがそのあとの、「両手に酒樽抱えて坂道をゴロンゴロン転がり落ちてって、誰か止めてえ〜ってな状態だ!自己破産寸前で、何年も会ってなかった息子に金を借りに来てる!だが、そんな男は、息子のことを、心配しちゃあいけねえのか!俺は、徹が心を開くまで絶対に帰らない!!」というセリフに繋がるかと思うとすごく切ない。カラフト伯父さん感想めぐりをしたらここで怒ってる方が多くいたけど、わたしは腹は立ちませんでした。それより気の毒だった。

いまだにわたしは、徹くんが心情を吐露して、カラフト伯父さんが「遅くなったけど、カラフト伯父さんが、登場いたしましたあ!」と言って暗転、打ち解けた様子でラスト…っていうのがよく消化できていません。
1.徹くんが、カラフト伯父さんを心の拠り所にしていた、助けて欲しかった、と告白することで、スーパーヒーローの自覚がなかったカラフト伯父さんが、息子の期待を裏切り続けたことを知り、申し訳なさに涙して「カラフト伯父さんが来たよ!」と叫ぶ。徹くん、自分の気持ちが通じたことに安堵し「カラフト伯父さん来てくれた」と今までのわだかまりが氷解。軽口を叩きつつ東京へ戻る父親を見送る。
2.徹くんが求めていたのは父親としての自分ではなくスーパーヒーロー「カラフト伯父さん」だったことを知り、絶望しつつも息子の期待を裏切れず、自分自身ではない虚構の存在「カラフト伯父さん」に扮して登場を宣言する。徹くん、もう「カラフト伯父さん」というヒーローはいない、むしろ初めからいなかったことを受け入れ、父親としての悟郎さんの背中を見送る。
3.宮沢賢治のような存在に憧れほうぼうの助けを求める人々に甘言をふりまいてきたカラフト伯父さん。しかし宮沢賢治ではないのでにっちもさっちもいかなくなってしまった。ヒーロー物語「カラフト伯父さん」の主人公、カラフト伯父さんの決め台詞「カラフト伯父さんが来たよ!」をいい、「遅くなったけど、カラフト伯父さん、登場いたしました」と紙芝居屋さんのように状況説明のセリフを言うことで自分を物語の外に置き、物語の終焉を告げる。徹くん、物語の幕引きをしてもらったことで諦めがつき、カラフト伯父さんではない父親の今後を見守る。
どれかな〜。2かなあ?あんまり救いがないなあ。

それにしても、宮沢賢治に憧れ〜っていうのはあると思うんだけどな。
東ニ病氣ノコドモアレバ
行ッテ看病シテヤリ
西ニツカレタ母アレバ
行ッテソノ稻ノ束ヲ負ヒ
南ニ死ニサウナ人アレバ
行ッテコハガラナクテモイゝトイヒ。
蒸気機関車の音じゃない!?」
「そんなわけないだろう」
「でもあの音…」
「ああ、おさるのチンチン電車だよ。駅はあっちの方角だしな」
「そう…」
カラフト伯父さんと仁美さんのこのかけあい、
銀河鉄道の話聞いた?」
「聞いてない!」
「ならええわ」
「教えてよ」
「あいつが話してないなら、俺から話すことなんかあらへん」
徹くんと仁美さんのこのかけあい、それから仁美さんが歌う「春色の汽車に乗って」から始まる赤いスイートピー。また、徹くんが前借りしてきたお給金で仁美さんのぶんだけチケットを買った新幹線。
電車に敏感に反応する、ここではないどこか、にとにかく行きたい仁美さんにとって、カラフト伯父さんはワンダーランドトレインだったんだろうなー。

いま風切って飛び乗って きみとワンダーランドトレイン
ほらベルの音響いてる 急げ ワンダーランドトレイン
未来が両手広げ待っている Go!Go!Go!
Hey!Say!7 「ワンダーランドトレイン」)

仁美さんはずっと駅のホームにいて、来た電車に飛び乗っただけであって、面倒みてくれるのがカラフト伯父さんじゃなきゃいけない理由はないんですよね。「頭いいし、尊敬してんのよ」「好きじゃなきゃ一緒にいないでしょ」とは言ってたけど、仁美さんだけ東京へ帰れって言われた時、拒んだ理由は「好きだから」という風には見えなかったな。わたしにとって劇中で一番衝撃の事実って、仁美さんのお腹の子がカラフト伯父さんの子じゃない、ってことでした。
あんただけならここにおってもええで、と言う徹くんには「あたしはダメよ、赤の他人だもん。あんたと悟郎ちゃんは血繋がってるけどさ」と断るけど、悟郎ちゃんと仁美さんだって他人じゃないの。

ところでおさるのチンチン電車ってなんですかね?サーカスの演目かな?路上サーカスでもやってるのかな、えっ、墓場に例えられるこの静かな街で?と思いながら見ていました。
チンチン電車路面電車のことなんですよね。ぐぐったら「新陳代謝の聞き間違いでしょう」って出てきたよ?そんなまさか。墓場のような街で、おさるの新陳代謝とは。