飛魚

中島裕翔くんのファンです

「殺風景」をみた

光くん出演の舞台「殺風景」を観ました。
愛と断絶の物語でした。
なにがあっても、どんな状況でも、人は人を愛することを諦められない。というメッセージが込められていると思いました。
以下ねたばれありの感想です。


「殺風景」は実際に起きた事件「大牟田四人殺害事件」を基にした話で、光くんは加害者家族の次男を演じていました。
物語のなかで強調されていたのは「臭い」。加害者家族のうち一人だけ縁を切っていて、犯罪に加担しなかった長女が経営するスナック、加害者家族の暮らす家、加害者家族の両親が結婚するときにお祝いのお花見をした川辺。


スナックの濡れた犬のような臭いを指摘した袴田検事に、スナックに勤める女性も常連客もその悪臭を感じないと言い、光くんたち家族の暮らす家に訪ねてきたのちの被害者も臭いを指摘しますが、光くんたちは臭いを感じないといいます。
犯罪現場、スナック、取調室、場面はさまざま展開しますが、どのシーンでも1人だけその場の臭いになじめないような異邦人がいて、その異邦人以外のみんなに連帯感を生んでいました。


だけどそのうちたったひとつ、異邦人が存在しない空間がありました。
光くんたち加害者家族が食事をするシーンです。
父親と母親がダイニングテーブルで年齢の話をしています。年月が流れるのは早い、と言いながら息子たちの帰りを待ちます。光くんと兄がコンビニでパスタを買ってきました。袋から取り出したのはミートソースとペペロンチーノとナポリタン。両親にペペロンチーノを渡します、父親が光くんにミートソースに交換してくれといいます、母親が、「にんにくだから元気が出るわよお」となだめます。ずるずると音を立てながらパスタをすする息子たち、父親もしぶしぶペペロンチーノを口に運びます、「うまいじゃねぇか」。母親が高い猫なで声で、「そうでしょ、最近のコンビニのは何でんおいしいんだから」。
団らんです。
このときすでに光くんは、被害者家族の母親を拉致していました。家族共謀しての犯罪ですから、みんなそれを知っています。この後被害者家族の家を探して、きっとあるはずの2000万を探しにいく予定です。息子も殺す予定です。

もしかしたら、そこに1人いない長女がそのシーンの透明な異邦人だったのかもしれません。

だけど光くんが「ハワイに行きたい」と言い出して、家族で行った熱海の話になり、父親が「家族水入らずでなあ」と発言して、そのとき家族はひとつでした。
罪を犯しても、これから殺人を予定していても。
団らんはどこにもあるのだ、ということがとても衝撃的でした。


愛と断絶。
人気のない川辺で、加害者家族に8600万円を貸していた被害者家族の母親と、加害者家族の母親が対峙します。
母親の手にはナイフ。長男は、カラオケに女性を待たせているので早くコトをすませてくれといらだっています。
おもむろに歌いだす母親、とまどう長男。続きを歌う、被害者女性。
歌とは、さて思い出を引き連れるものですし、世代によって流行り歌は変わるものです。
「男の女の間には 暗くて深い川がある」と歌いだし、歌い継ぎ、さらには合唱を始めた二人の女性の間には、同じ時代に生きた重なりがあって、その合唱に参加した加害者家族の父親も同じ時代に生きていて、先ほどまでひとつだった家族はあの時間、世代によって断絶していました。


スナックで検事は長女を問い詰めます。殺害を実行した日、次男から着信があったろう、お前からも発信があったろうというのです。次男とは光くんのことです。午後3時ごろに3回発信、留守電。長女は関わりたくないので無視をして、サスペンスドラマを見たりお店の仕込みをしたりしていましたがどうにも胸騒ぎがして、午後22時すぎ、弟である光くんに電話をかけます。
長女は光くんの話を再現して話します。すっごい面白い話があるから聞いてくれ、エスカレーターで3段前の女性のワンピースに大きな金色のカナブンがとまっていた話をします。金ボタンだと思っていたらカナブンで、動いたから驚いた、という、とりとめのない話を、検事に話していたら長女は涙がとまらなくなり、話を続けられなくなってしまいます。
公務の範疇を出過ぎたといって引き揚げる検事たちを見送り、いままでの話をすべて聞いていた常連客が長女にプロポーズをして、幕。


知らない歌「断絶」、臭い「断絶」、殺人を実行する・しない「断絶」、違う場所に暮らす「断絶」、殺人をしても弟への愛を捨てられない「断絶」、さまざまな断絶がありながらもやっぱり、あなたと家族になりたい、という言葉で終わるこの舞台はハッピーエンドだと思います。
家族は宝だ、と父親が取調室で言いました。いんばいである母親が、立ちんぼをして誰の子とも知らぬ長男をはらんだ時も、その子は宝だ、と言いました。
血がつながっていなくても家族になれる、というのは、自分が父親の子ではないと知りながら暮らしてきた長男も知るところではなかったでしょうか。
ひとりだけ縁を切って離れて暮らす長女は、最近できた安いスーパーよりも、ずっと使ってきた少し高いスーパーを使いたいの、と言います。「やさしい」と言われ、そんなんじゃないのと否定します。
長女の父親、加害者家族の父親は金勘定の苦手な任侠で、義理と人情を大事にしろ、思いやりを持てと子供たちに教えていたようでした。
殺害現場でも、「こいつは家庭を持っているんだからお前がやれ、思いやりを持て」と光くんに殺人を指示していました。
縁を切っていたとしても、かかわりあいになりたくないとしても、長女のなかに、父親の教えは生きています。


とても見ていられなくて、目をそむけてしまうような場面も多かったなかで、光くんが家族が見守るなか殺人をしたシーン、中空には雲がかかった満月が照らし出されていて、父親を待って缶けりをする間、草陰で光くんは兄と母の攻防が、さぞやはっきり見えたことだろうと思いました。